Interview
株式会社 KSP
代表取締役
三⻆ 栄二郎
事業承継直後の新型コロナウィルスの流行、経営理念の刷新、
甲子園の出場経験や、スカイツリーの受注を経て培われた胆力。
三代目として。父として。息子として。弟として。
警備会社の代表として挑戦を続ける三⻆氏の想いとは?
株式会社KSP 代表取締役 三⻆ 栄二郎氏インタビュー(記者/中川)
小学生のときはプロ野球選手になりたかった
- 中川:事業承継をするにあたり思うところや覚悟もおありだったかと思います。
承継された直後にコロナの流行もありました。
まずプロフィールから伺いたいのですが、社長と会長お二人共野球をずっとやっていらっしゃったのですか? - 三⻆:そうですね。川越にある秀明学園※1という中高一貫の全寮制の学校で野球をやっていました。
僕らのときはまだ男子校でしたね。
中高一貫の全寮制の男子校という日本ではそこしかない学校に通っていたんです。 - 中川:厳しそうな学校ですね。
- 三⻆:父はもともと反対していましたが、母は教育熱心だったので秀明学園に入れたがりました。
しかしその頃、秀明学園が甲子園に出場するということになり
「ここなら野球もできるだろう」ということで父が納得し、
まず兄(現会長)が入学しました。巨人の星みたいな家庭だったんです。
父はいっしょになって監督もやっていましたし、学生時代は会社を継ぐという気持ちも全然ありませんでした。
小学生のときはプロ野球選手になりたかったし、
高校生になって進路を訊かれたときにも「ホテルマンになりたい」と答えていましたね。 - 中川:意外ですね。
- 三⻆:僕は高校2年生のときに甲子園に行くことができ、そのおかげで大学にも推薦で受かりました。
でもその大学に入ってから野球を辞めてしまって……ボーっとしてたときにKSPでアルバイトで働くようになったんです。
でも僕が会社を手伝うようになったら待っていたように両親が離婚。
親父は社長。母親は経理。
ハンコも「よろしくね」と渡されて、そのまま大学3年生、4年生なり、進路どうしようかな? と考えていました。
その当時の僕は大学に通いつつ月収10万円で、取締役だったんですよね(笑)。 - 一同:(笑い声が上がる)
- 三⻆:ちゃんと学校行ってから、会社来てね。経理の伝票書いたりとか、やってたんですよ。
でもだらだらやるのもどうなのかな? 学校も行かせてもらえた。甲子園にも行くことができた。
恩返しというわけではないですけど、会社のおかげだなと思ったんです。
警備の面白さに気づかせてくれたワールドカップのイベント
- 中川:早く事業承継をしたい、という風にお考えだったんでしょうか?
- 三⻆:いえ。そもそも僕がトップになるということを考えていませんでした。
「別の新しい事業を取り入れていくといいんじゃないか」と考えてもいましたし、
正直に言うとリスペクトする気持ちが中々芽生えずにいたんです。 - 中川:そうだったんですね。
- 三⻆:しかし、サッカーのワールドカップのイベントの仕事をやるって決まってから、
やっと警備の仕事に興味を持つことができたんですね。イベントの仕事ってチームワークなんです。
イベント隊というのを立ち上げてね、大垣君※2を隊長にして、
野球の監督になったようなつもりで、
君は声が出るからこのポジションね、誘導が上手だからここね、じゃあキャプテンお願いねって。
そうやってチームプレーで一つの仕事をして終わった後の達成感っていうのが心地よくて。
高校1年生で入った子たちが、最初は弱々しかったのにその気になるとどんどん成長するんですよ。
隊も部活のような感じ。
隊の編成を通して組織全体の成長の段階が見える。こりゃあ面白い、と。
警備業があるから社会の経済活動が守られている
- 中川:後継者が就任してすぐに人をガラッと変えてしまうこともありますけど、
今いるこのメンバーで優勝するぞという三⻆社長のプレースタイルが経営にも表れているんですね。 - 三⻆:中小企業だからこそできるチームプレーがあります。
たとえば僕のいた野球部はバッティングの練習をしていた人が今度はバッティングの練習で
ピッチャーをやったりキャッチャーをやったり。
そういうことも真剣にやれば練習になるので、そんな風にみんなで協力しあって練習していました。
野球の強い有名校にはずっと球拾いをやるしかない子がいたり、その子たちはうまく練習できなかったりするわけです。
企業でも同じようなことが起こります。 - 中川:就任直後にコロナの流行もありましたが、どのように捉えていらっしゃいましたか?
- 三⻆:コロナの前から大変でしたし、ポジティブに考える訓練を普段からしています。
考えなければいけないことがたくさんあったので、考えることや本を読むことに時間を使いましたね。
そもそも警備業っていう業界自体、社会的価値がすごく低いと思うんですよね。
お給料も低いし、人からあまり尊敬されない。昔で言うところの3Kです。
警備員にあこがれてる若い人ってあまりいませんよね。
「警備員ってどういうイメージ?」って訊くと「道路にいる人」と答えられてしまう。
でもね、安全が確保されないと安心した社会生活も送れないし、経済活動もできないわけですよ。
社会に必要とされているからこそ売上が大幅に減ることもなく、やれてきているんだなという風に捉えています。 - 中川:楽しいところの裏側には必ず警備が入っていますもんね。
- 三⻆:そうなんです。
- 中川:ライブもそうですし、舞台もそうですし……。
- 三⻆:警備業者がいなかったら世の中は回っていかないわけです。
「自分が経営者じゃなくても会社を存続できるように」という想いを理念に込めた
- 中川:三代目として就任されてから、会社のここを変えたという点はありますか?
- 三⻆:大幅に変えたいとは思ってないですね。
- 中川:すごく変えたがる人もいますよね。社名もロゴも全部。ガラッと変えてしまうという。
- 三⻆:KSPって名前も会社の雰囲気も好きです。
もう会社自体35年経ちますけど、両親がやってきてくれたおかげでこうやって今があるわけです。
ただ、唯一変えなきゃいけないと思ったのは理念の部分。
理念の部分は少しわかりやすいものに変えました。
社外的にも社内的にもわかりやすい。みんなにわかるものにしないといけない。
それでいて筋が通っていないといけない、という想いは自分の中にありました。
しかしそれも、一代目、二代目、三代目の共通する想いを残すというかたちでの刷新です。 - 中川:三代目ってキーマンですよね。
- 三⻆:徳川幕府も三代目家光※3が優秀だったから、あそこまで伸びたという説があります。
自分の代で誰もが理解できる理念に整え、
自分が経営者じゃなくても会社を存続できるようにという想いを理念に表したかった。
誰が経営者でもその理念を読めば、そこを守っていけば会社が存続できるというものにしたかったんです。
創業者の想いも大事だと思うしリスペクトもあります。
それを守ろうと。携わってきた人も含めてそこに感謝がないと経営に身も入らないと思うんですよね。
それを想いつつそれを残すには? と考えたときに、
今までいっしょにされがちだった企業理念と経営理念と行動指針の3つに分けたんです。企業理念は決定的なもの、会社の存在意義。
経営理念は次の経営者がまたいつか変えられるように。
そのときの経営者、社長さんの想いが入っていいものを。そういう風に分けたんです。
白か黒かではなく中道を歩む
- 中川:社長が大事にされている信念をお教えいただいてもよろしいですか?
- 三⻆:色々ありますけど。誠実に取り組むことっていうことですかね。
白か黒かではなくて、警備の仕事は真ん中なんですよね。
警察とは違うし、一般的に何の権限もないけど警察のような働きをするという。
仏教で言うところの中道を歩むという、真ん中をゆくという考えなんですけど。
警備はそこが素晴らしいと思ってます。
スポーツみたいに勝ち負けならばわかりやすくていいんですけど、経営者ってそうじゃない。
真ん中をゆくことによって生まれる信頼関係がある。
そこから生まれる次の段階があったり、次の取引につながったりする。
僕、Mr.Childrenが大好きなんですけどね。
『GIFT』って曲があるんですけど、白か黒じゃなくてその間に無限の色が広がっているって歌詞があるんですよ。 - 中川:たしかに働く方も色んな方がいますし、現場も色々ですもんね。
白か黒かでは判断できない。
ロイヤルホストやつばめグリルの在り方が好き
- 三⻆:実はね、ファミリーレストランのロイヤルホストが好きなんです。
- 中川:意外ですね。
- 三⻆:どういう意味で意外なの(笑)?
- 中川:お蕎麦とかが好きそうイメージでした。
- 三⻆:もちろんお蕎麦も好きなんですけど。
高級でもないサイゼリアほど庶民的でもないロイヤルホストのサービス。
真ん中よりちょっと上の商品、真ん中よりちょっと上の価格で満足できるというか。
そういうとこが好きなんですよね。つばめグリル※4とかね。すごい好きですよね。 - 中川:まさに中道を行く、ですね。
ロイヤルホストならではのおもてなし感ってありますよね。
そういうものをお客様や社員さんに提供したいというイメージですか? - 三⻆:そうですね。大手より値段は抑えて、お手頃にね。
でも期待はちょっと越えたい。あまり超えるとコストが上がるから(笑)。
この値段でこれだけやってくれるんだったらまたKSPさんにお願いしようかなって。
そういうところに行けたらいいなと思います。
※1 秀明学園……埼玉県川越市にある「全寮制」「中高一貫」「全人英才教育」を特色とした学園。1996年に男女共学化。
※2 大垣君……現在は社内の人事戦略室を担当する大垣広太氏。
※3 三代目家光……徳川幕府三代目徳川家光。十五代慶喜の大政奉還まで続く幕府の礎を築いたとされる人物。
※4 つばめグリル……品川駅前店に基幹店をもち東京都~神奈川県エリアを中心に展開する洋食レストラン(チェーン店)。